私たちは、秋冬は農業用水路や河川の補修工事で多忙な毎日を過ごしますが、春夏は化学プラントや下水道関連の防食被覆工事、コンクリート補修工事を施工しますが、自由に使える時間が多いので、この時間を利用して過去の施工で効率が悪い、不具合が発生した等の原因を調べたり、対応策を思案しています。
過去のことだけではなく、今後使用する可能性のある資材についての確認作業なども行います。また、個人的にチャレンジしてみたい新たな方法等もこの時期に検証しています。現地施工が開始されてから新たな施工法でチャレンジしたいと提案されても失敗した場合はご迷惑をおかけすることとなるので、やはり確認してからになります。現場での作業開始時には、これらの準備の良否で、決着はついてしまいます。
昨年度の農業水路関連では不具合もなく8割方満足のいく施工が出来たので、今年の春夏は、久々に防食被覆分野での課題を自由研究としました。基本に立ち戻り、防食被覆材の硬化収縮について確認し、将来の実施工で作業者の知見となるデーターを得ることにしました。
なぜ、作業者が硬化収縮について理解しておくことが必要なのでしょう。私たちはビニルエステル樹脂で防食作業を行いますが、この樹脂はよく縮むのです。防食用途の樹脂は、主にエポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂が使われています。エポキシ樹脂の硬化収縮率は1~3%、ビニルエステル樹脂の硬化収縮率8~9%程度で、ビニルエステル樹脂は硬化収縮率が大きいのです。
よく縮む性質は、界面剥離、クラック、変形の原因となりますが、通常の施工環境、現行の施工法では、収縮がコントロールされ、このような現象は起こりません。このコントロールとは補強繊維の使用や、塗膜厚の管理を行うことで収縮の大部分を厚み方向に発生させます。これは、液状の樹脂を塗布した直後の塗膜厚は硬化後には減少してしまいます。
施工者にとって施工後の塗膜厚は重要なポイントで、お客様の要求される防食被覆層の耐用年数は塗膜厚で設定されるのです。「○○kg塗布したから大丈夫」ではなく、「○○kg塗布したので○○mmの膜厚が確保できた」にしたいものです。
そこで硬化収縮について考えます。
硬化収縮率を知るには、ビニルエステル樹脂の場合、硬化前比重(液体)と硬化後比重(固体)を求めなければなりません。まずは、液体比重を求めます。必要な物は、台秤、メスシリンダーまたは、ピクノメーターです。メスシリンダーは目盛りを読み取るのが難しく、誤差も大きいのでピクノメーターを使います。今回は100c㎥用を使います。ピクノメーターはカップと蓋がセットになっていてカップに液体を入れ、蓋をした時に蓋の穴から液体が出てくれば、カップ内はちょうど100c㎥になっています。(本来は試料、水、ピクノメーター、室温すべて25℃で使用する)
比重は次の式で求めます。
S=(m3-m1)÷(m2-m1)
S:試料の比重 m1:ピクノメーターの質量(g) m2:ピクノメーターと水の質量(g)
m3:ピクノメーターと試料の質量(g)
まずは、m1のピクノメーターの重量を台秤で計量します。181.55gです。
m2のピクノメーターと水を計量します。ピクノメーターに水を満たし蓋をします。蓋の穴から出てきた水は拭き取ります。
満水のピクノメーターの重量を計量します。281.10gです。
最後は、m3のピクノメーターとビス系ビニルエステル樹脂の質量を求めます。ピクノメーターにビニルエステル樹脂を注ぎ入れ蓋をし、穴から出てきた樹脂を拭き取ります。
樹脂で満たされたピクノメーターの重量を台秤で計量します。285.00gでした。
(この写真は、異なる樹脂の計量状況です。参考まで。)
計量作業はここまでで終了です。
比重を求める計算式に、m1,m2,m3を当てはめてみます。
S=(285.00g-181.55)÷(281.1-185.55)=1.03917
ビス系ビニルエステル樹脂の液体比重は、1.04となりました。
次は、硬化物の比重を求めます。